「将来が見通せる安定した環境で働きたい」「社会貢献性の高い仕事がしたい」「ワークライフバランスを大切にしたい」そんな想いを持つエンジニアにとって、公共機関・官公庁は魅力的な選択肢です。
公共機関・官公庁のIT部門は、民間企業とは異なる独自の魅力があります。終身雇用に近い雇用の安定性、充実した福利厚生、計画的なキャリア形成、そして何より、国民生活を支える社会インフラの構築という大きなやりがいがあります。
私自身、民間IT企業から公的機関のIT部門に転職した経験があり、働き方の違いに最初は戸惑いましたが、今では安定した環境で長期的なプロジェクトに携われる充実感を感じています。一方で、民間企業のようなスピード感や最新技術への挑戦機会が少ないというトレードオフもあります。
この記事では、公共機関・官公庁への転職を考えるエンジニアに向けて、各組織の特徴、年収・待遇、必要なスキル、求人の探し方まで、実体験とデータに基づいて徹底解説します。
公共機関・官公庁のエンジニアとは?
公共機関・官公庁の定義と範囲
公共機関・官公庁と一口に言っても、その範囲は広く、組織形態も多様です。
中央省庁 国の行政機関で、総務省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省など、各省庁のIT部門があります。デジタル庁は2021年に新設された省庁で、日本全体のデジタル化を推進する中核組織として、積極的にエンジニアを採用しています。
中央省庁では、国の行政システムの企画・開発・運用、政策立案のためのデータ分析、サイバーセキュリティ対策などを担当します。国家公務員としての身分で、安定性は最も高いですが、採用のハードルも高めです。
地方自治体 都道府県庁、政令指定都市、市区町村などの地方公共団体のIT部門です。住民情報システム、税務システム、福祉システム、教育システムなど、地域住民の生活に直結するシステムの開発・運用を担当します。
地方公務員としての採用で、転勤が限定的なため、地元で安定して働きたい人には最適です。近年は自治体DXが推進され、エンジニア採用を強化する自治体が増えています。
独立行政法人 国や地方公共団体から独立した法人で、特定の公共的業務を担う組織です。情報処理推進機構(IPA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、日本年金機構、国立病院機構など、多様な組織があります。
公務員ではありませんが、準公務員的な立場で、安定性と民間企業的な柔軟性を併せ持ちます。専門性の高いプロジェクトに携われることが魅力です。
特殊法人・認可法人 日本郵政グループ、NHK、日本銀行、東京メトロなど、特別な法律に基づいて設立された法人です。公的な役割を担いつつ、民間企業に近い経営形態を持ちます。
給与水準は公務員より高めで、民間企業と公共機関の中間的な位置づけです。
公的研究機関 産業技術総合研究所(産総研)、理化学研究所(理研)、情報通信研究機構(NICT)など、国立の研究機関です。最先端の研究開発に携わり、論文執筆や学会発表の機会もあります。
研究者としてのキャリアと、エンジニアとしてのキャリアを両立できる環境です。博士号を持つエンジニアも多く活躍しています。
第三セクター 公共団体と民間企業が共同出資する組織で、地域振興、公共交通、まちづくりなどの分野で活動しています。IT部門の規模は小さいことが多いですが、地域に密着した仕事ができます。
公共機関のエンジニアの役割と仕事内容
公共機関のエンジニアは、国民生活を支える重要なシステムの構築・運用を担っています。
行政システムの開発・運用 住民基本台帳システム、税務システム、社会保障システム、公共施設予約システムなど、行政サービスを提供するための基幹システムを開発・運用します。
これらのシステムは、すべての国民や住民が利用するため、使いやすさ、アクセシビリティ、セキュリティが特に重要です。障害が発生すると多くの市民に影響するため、高い安定性が求められます。
マイナンバー関連システム マイナンバー制度の運用基盤となる各種システムの開発・運用を担当します。個人情報を扱うため、最高水準のセキュリティ対策が必要です。
マイナポータル、マイナンバーカードの健康保険証利用、公金受取口座登録など、マイナンバー関連サービスは拡大を続けており、エンジニアの需要が高まっています。
オープンデータ・データ分析 政府や自治体が保有する公共データを、オープンデータとして公開する取り組みが進んでいます。データの整理、API開発、ポータルサイトの構築などを担当します。
また、政策立案のためのデータ分析も重要な業務です。人口動態、経済指標、交通データなど、様々なデータを分析し、エビデンスに基づく政策形成を支援します。
サイバーセキュリティ対策 公共機関は、国内外からのサイバー攻撃の標的となりやすく、セキュリティ対策は最重要課題です。ファイアウォール、侵入検知システム、ログ分析、脆弱性診断など、多層的なセキュリティ対策を実施します。
NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)やデジタル庁のセキュリティ部門では、国家レベルのサイバーセキュリティ戦略の立案・実行を担当します。
デジタル化推進(DX) 行政のデジタル化を推進する業務も増えています。紙の申請書をオンライン化、AIチャットボットによる問い合わせ対応、RPA導入による業務効率化など、様々なDXプロジェクトが進行中です。
新型コロナウイルス対応で浮き彫りになった、行政のデジタル化の遅れを取り戻すため、積極的な投資が行われています。
システム調達・ベンダー管理 公共機関では、システム開発を外部ベンダーに発注することが多く、その調達や管理も重要な業務です。RFP(提案依頼書)の作成、ベンダー選定、プロジェクト管理、品質管理などを担当します。
適切な調達を行うには、技術的知識に加え、調達制度、契約、プロジェクトマネジメントの知識が必要です。
研究開発(研究機関) 公的研究機関では、AI、量子コンピュータ、5G/6G、サイバーセキュリティなど、最先端技術の研究開発を行います。基礎研究から応用研究まで、幅広いテーマに取り組めます。
研究成果は論文として発表し、学会で発表する機会もあります。アカデミックなキャリアを追求したいエンジニアには魅力的な環境です。
民間企業との違い
公共機関のエンジニアとしての働き方は、民間企業とは大きく異なります。
開発スピードと意思決定 民間企業、特にスタートアップでは「素早く作って市場の反応を見る」アプローチが一般的ですが、公共機関では「慎重に計画し、確実に実行する」アプローチが取られます。
予算編成、議会承認、調達手続きなど、多くのステップを経る必要があり、プロジェクトの開始までに数ヶ月〜1年以上かかることもあります。開発期間も長期にわたることが多く、数年単位のプロジェクトも珍しくありません。
技術選定の保守性 最新の技術を積極的に採用する民間企業に対し、公共機関では実績のある安定した技術が選ばれる傾向があります。長期的な運用、ベンダーサポート、セキュリティ、互換性などを重視するためです。
新しい技術に挑戦したいエンジニアには物足りなく感じるかもしれませんが、一方で、枯れた技術を使いこなし、長期的に安定したシステムを構築する経験を積めます。
予算制約 公共機関の予算は税金で賄われるため、その使い方には厳格な制約があります。予算は年度ごとに編成され、年度内に使い切る必要があります。予算の流用や繰越は原則できません。
このため、柔軟な予算運用が難しく、年度末に予算消化のための駆け込み発注が発生することもあります。
調達制度の制約 公共機関の調達は、競争性、透明性、公平性を確保するため、厳格な手続きが定められています。一般競争入札、指名競争入札、随意契約など、調達方法も法律で規定されています。
このため、「この会社に発注したい」と思っても、すぐには発注できません。RFPを作成し、公告し、提案を評価し、契約するという長いプロセスが必要です。
働き方の安定性 民間企業では、業績悪化によるリストラや事業撤退のリスクがありますが、公共機関ではそのようなリスクは極めて低いです。終身雇用に近い安定した雇用が保証されています。
一方で、成果に応じた大幅な昇給や、若手の抜擢といったことは少なく、年功序列的な側面もあります。
社会的使命 公共機関の仕事は、営利を目的とせず、国民や住民の福祉向上を目的としています。「社会の役に立っている」という実感を得やすく、使命感を持って働けます。
一方で、政治的な影響を受けることもあり、政権交代や政策変更により、プロジェクトの方向性が変わることもあります。
公共機関・官公庁の種類と特徴
デジタル庁
組織概要 2021年9月に発足した、日本のデジタル化を推進する司令塔となる省庁です。内閣総理大臣直属の組織で、各省庁のデジタル化を横断的に推進します。
主な業務 マイナンバーシステムの整備、政府情報システムの統括・監理、デジタル社会の基盤整備、自治体DXの支援など、日本全体のデジタル化を推進します。
ガバメントクラウドの整備、デジタル田園都市国家構想の推進、デジタル臨時行政調査会の運営など、重要なプロジェクトを多数推進しています。
働く魅力 日本のデジタル化という大きなミッションに携われることが最大の魅力です。国家レベルのプロジェクトに若手からも参画でき、大きな裁量を持って働けます。
民間企業出身者を積極的に採用しており、エンジニアの約半数が民間出身です。給与水準も一般の公務員より高く設定され、フレックスタイム制やテレワークも活用できます。
年収と待遇 デジタル庁のエンジニア職(デジタル監)は、一般の国家公務員とは異なる給与体系で、年収600万円〜1,200万円程度が目安です。スキルと経験に応じて柔軟に設定されます。
任期付職員としての採用が多く、2〜3年の任期で更新されます。常勤職員としての採用もあり、その場合は国家公務員としての安定した身分が得られます。
求められるスキル クラウド(AWS、Azure、GCP)、アプリケーション開発(Java、Python、JavaScript等)、データ分析、UI/UXデザイン、プロジェクトマネジメントなど、幅広いスキルが求められます。
民間企業での実務経験が重視され、特にクラウドサービスの設計・構築経験、大規模システム開発のリード経験があると高く評価されます。
総務省・経済産業省等の中央省庁
組織概要 各省庁にはIT部門があり、所管業務に関するシステムの企画・開発・運用を担当します。総務省は地方自治体のIT化支援、経済産業省は産業のデジタル化推進など、省庁ごとに特色があります。
主な業務 省内の業務システムの開発・運用、政策立案のためのデータ分析、所管分野のIT政策の企画・立案などを担当します。
例えば、総務省では自治体の基幹システム標準化、経済産業省ではDX推進施策の企画、国土交通省では国土地理情報システムの整備などに携わります。
働く魅力 国の政策形成に直接関わることができ、大きな社会的影響力を持つ仕事に携われます。国家公務員としての身分保証があり、終身雇用が前提です。
省庁間の異動や、出向も多く、多様な経験を積めます。海外の行政機関への出向や、国際機関での勤務機会もあります。
年収と待遇 国家公務員の給与体系に準じ、入省時(新卒)で年収400万円程度、30代で600万円〜800万円、課長級(40代)で900万円〜1,100万円、部長級で1,200万円〜1,500万円が目安です。
住居手当(月2.8万円)、扶養手当、通勤手当などの各種手当が充実しています。官舎が利用できる場合もあり、格安で都心に住むことができます。
求められるスキル システム開発の技術スキルに加え、政策立案能力、法令知識、プロジェクトマネジメント能力が求められます。国家公務員総合職または一般職試験に合格する必要があります。
中途採用の場合は、デジタル人材として経験者採用枠で応募します。民間企業でのシステム開発経験、プロジェクトマネジメント経験が重視されます。
都道府県庁・政令指定都市
組織概要 地方自治体のIT部門は、住民サービスのデジタル化、庁内システムの運用、情報セキュリティ対策などを担当します。規模の大きい自治体では、100名以上のIT職員を抱えることもあります。
主な業務 住民情報システム、税務システム、福祉システム、教育システムなど、住民生活に直結するシステムの運用・保守を担当します。近年は、スマートフォンでの申請手続き、AIチャットボット、RPAなど、DXプロジェクトも増えています。
災害対応システム、防災情報システムの整備も重要な業務で、住民の安全を守る重要な役割を担います。
働く魅力 地元で安定して働けることが最大の魅力です。転勤がないか、あっても県内・市内に限定されるため、地域に根ざした生活ができます。
自分が住む地域の住民サービス向上に直接貢献でき、仕事の成果が身近に感じられます。窓口業務の効率化、住民の利便性向上など、具体的な改善が実感できます。
年収と待遇 地方公務員の給与体系に準じ、自治体の規模や財政状況によって異なります。
- 都道府県・政令指定都市: 新卒年収350万円〜400万円、30代600万円〜800万円、課長級900万円〜1,100万円
- 中核市・一般市: 新卒年収320万円〜380万円、30代550万円〜750万円、課長級800万円〜1,000万円
- 町村: 新卒年収300万円〜350万円、30代500万円〜650万円、課長級700万円〜850万円
住居手当、扶養手当、地域手当などが支給され、公舎が利用できる場合もあります。退職金も充実しており、定年まで勤めれば2,000万円以上が期待できます。
求められるスキル 基幹系システム(Java、C#等)、Webアプリケーション開発、ネットワーク・サーバー管理、情報セキュリティなど、幅広いスキルが求められます。
自治体によっては、特定のパッケージシステム(LGWAN、自治体クラウド等)の知識が必要な場合もあります。地方公務員試験に合格する必要があります。
独立行政法人(IPA、JAXA等)
情報処理推進機構(IPA) 経済産業省所管の独立行政法人で、IT人材育成、情報セキュリティ対策、ソフトウェアの信頼性向上などを推進します。
情報処理技術者試験の実施、未踏IT人材発掘・育成事業、J-CRATによるサイバー攻撃対策支援など、多様な事業を展開しています。
年収は公務員よりやや高めで、30代で600万円〜900万円、40代で800万円〜1,200万円程度です。IT業界のキャリアパスとして魅力的で、民間企業からの転職者も多いです。
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 日本の宇宙開発を担う研究機関で、ロケット、人工衛星、宇宙ステーションなど、最先端の宇宙技術の研究開発を行います。
エンジニアとしては、衛星の制御システム、地上管制システム、データ解析システムなどの開発に携わります。宇宙という究極のロマンを追求でき、世界最高レベルの技術に触れられます。
年収は30代で600万円〜900万円、40代で800万円〜1,200万円程度です。博士号を持つ研究者も多く、学術的なキャリアとエンジニアリングを両立できます。
日本年金機構 公的年金制度の運営を担う組織で、年金記録管理システム、年金給付システムなどの大規模システムを運用します。
1億人以上の年金記録を管理する、国内最大級のシステムを扱います。年収は30代で500万円〜750万円、40代で700万円〜1,000万円程度です。
特殊法人・公社(日本郵政、NHK等)
日本郵政グループ 郵便、金融、物流事業を展開する公的企業グループです。郵便局ネットワークを支える情報システム、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の金融システムなど、大規模システムを運用します。
民営化されましたが、政府が株式を保有する特殊会社です。年収は民間企業に近く、30代で600万円〜900万円、40代で800万円〜1,200万円程度です。
NHK(日本放送協会) 公共放送を担う特殊法人で、放送システム、配信システム、視聴者管理システムなどを運用します。
4K/8K放送、インターネット配信(NHKプラス)、アーカイブシステムなど、最先端の放送技術に携われます。年収は30代で650万円〜950万円、40代で850万円〜1,300万円程度です。
日本銀行 日本の中央銀行で、金融政策の実施、決済システムの運営などを担います。日銀ネット(BOJ-NET)という決済システムの開発・運用が主な業務です。
極めて高い安定性とセキュリティが求められるシステムで、金融システムのエンジニアとして最高峰の経験を積めます。年収は30代で700万円〜1,000万円、40代で900万円〜1,400万円と高水準です。
公的研究機関(産総研、理研、NICT等)
産業技術総合研究所(産総研) 経済産業省所管の国立研究機関で、AI、IoT、ロボット、材料科学、バイオテクノロジーなど、幅広い分野の研究を行います。
エンジニアとしては、研究支援システム、データ解析基盤、実験装置の制御システムなどの開発に携わります。最先端の研究に触れ、論文執筆の機会もあります。
年収は30代で550万円〜850万円、40代で750万円〜1,100万円程度です。任期付研究員として採用されることが多く、成果次第で任期を更新します。
理化学研究所(理研) 日本を代表する自然科学の総合研究機関で、物理学、化学、生物学、計算科学など、多様な分野の基礎研究を行います。
スーパーコンピュータ「富岳」の運用、ゲノム解析、脳科学研究など、世界最先端の研究プロジェクトに携われます。年収は30代で550万円〜900万円、40代で750万円〜1,200万円程度です。
情報通信研究機構(NICT) 総務省所管の研究機関で、5G/6G、量子暗号、サイバーセキュリティ、AIなど、情報通信技術の研究開発を行います。
日本標準時の管理、サイバー攻撃の観測・分析(NICTER)、多言語音声翻訳システムの開発など、社会インフラを支える研究を担当します。年収は30代で600万円〜900万円、40代で800万円〜1,200万円程度です。
公共機関・官公庁のエンジニア年収と待遇
組織別の年収比較
公共機関の年収は、組織形態や規模によって大きく異なります。
中央省庁(国家公務員)
- 入省時(新卒): 380万円〜420万円
- 3〜5年目: 450万円〜550万円
- 6〜10年目(係長級): 550万円〜700万円
- 11〜15年目(課長補佐級): 700万円〜850万円
- 16〜20年目(課長級): 850万円〜1,100万円
- 21年目以上(部長級以上): 1,200万円〜1,800万円
デジタル庁のデジタル監など、特別な職種では年収600万円〜1,200万円と高めに設定されています。
地方自治体(地方公務員)
都道府県・政令指定都市:
- 新卒: 350万円〜400万円
- 30歳前後: 500万円〜650万円
- 35歳前後: 600万円〜800万円
- 40歳前後(係長・主査): 700万円〜900万円
- 45歳前後(課長補佐): 800万円〜1,050万円
- 50歳前後(課長): 950万円〜1,200万円
一般市区町村:
- 新卒: 300万円〜380万円
- 30歳前後: 450万円〜600万円
- 35歳前後: 550万円〜750万円
- 40歳前後: 650万円〜850万円
- 45歳前後: 750万円〜1,000万円
- 50歳前後: 850万円〜1,150万円
独立行政法人
- 入社時: 400万円〜500万円
- 30歳前後: 550万円〜800万円
- 35歳前後: 650万円〜950万円
- 40歳前後: 750万円〜1,100万円
- 45歳前後: 850万円〜1,250万円
- 管理職: 1,000万円〜1,500万円
組織や職種によって幅がありますが、公務員よりやや高めの水準です。
特殊法人・公社
- 入社時: 400万円〜550万円
- 30歳前後: 600万円〜900万円
- 35歳前後: 700万円〜1,050万円
- 40歳前後: 850万円〜1,200万円
- 45歳前後: 950万円〜1,350万円
- 管理職: 1,100万円〜1,600万円
民間企業に近い給与水準で、業績によるボーナス変動もあります。
福利厚生の充実度
公共機関の最大の魅力の一つが、極めて充実した福利厚生です。
住居関連 国家公務員・地方公務員ともに、住居手当が支給されます。国家公務員は月額最大2.8万円、地方公務員は自治体により異なりますが月額2万円〜3万円が一般的です。
官舎・公舎が利用できる場合もあり、都心部でも月2万円〜5万円程度の格安家賃で住むことができます。官舎は築年数が古いものも多いですが、通勤の便が良い立地にあることが多いです。
一部の自治体や独立行政法人では、住宅購入時の利子補給制度や、低金利の住宅ローン制度もあります。
年金・退職金 公務員は、厚生年金に加えて「年金払い退職給付」という上乗せがあり、老後の生活が手厚く保障されます。
退職金は非常に充実しており、定年(60歳)まで勤めた場合、国家公務員で約2,200万円、地方公務員で約2,000万円〜2,400万円(自治体により異なる)が平均的です。
独立行政法人や特殊法人も、退職金制度が整備されており、1,500万円〜2,500万円程度が期待できます。
休暇制度 年次有給休暇は年20日付与され、繰越も可能です(最大40日)。有給休暇の取得率も高く、年間15日以上取得するのが一般的です。
病気休暇(90日)、特別休暇(結婚、出産、忌引等)、介護休暇など、各種休暇制度が充実しています。夏季休暇も3〜5日あり、年末年始休暇も長めです。
育児休業は最長3年まで取得可能で、男性の育児休業取得率も上昇しています。育児休業中も一定の給与が保障されます。
健康保険・共済組合 公務員は、共済組合に加入し、健康保険、年金、福祉事業の給付を受けます。保養所、スポーツクラブ利用補助、人間ドック補助など、福利厚生メニューが豊富です。
医療費の自己負担も、付加給付により実質的に軽減されます。共済組合が運営する宿泊施設を、格安で利用できます。
その他の手当 扶養手当(配偶者6,500円/月、子供1人10,000円/月)、通勤手当(実費支給、上限あり)、寒冷地手当、特地勤務手当など、各種手当が充実しています。
超過勤務手当(残業代)は、時間に応じて確実に支給されます。民間企業のような「みなし残業」はなく、働いた分だけ正確に支給されます。
ワークライフバランスの実態
公共機関は、ワークライフバランスを重視する文化が定着しています。
残業時間の実態 公務員の残業時間は、部署によって大きく異なります。一般的な部署では月10〜20時間程度で、民間企業と比較して少なめです。
ただし、予算編成時期、議会対応時期、システム刷新プロジェクトの佳境など、繁忙期には月40〜60時間程度の残業になることもあります。それでも、民間IT企業の平均よりは少ない傾向です。
働き方改革の推進により、残業削減の取り組みが進んでおり、20時以降の残業禁止、週1回のノー残業デーなどの制度を導入している組織も多いです。
休暇取得のしやすさ 公務員は、休暇取得が権利として認められており、取得しやすい環境です。上司や同僚も休暇取得を推奨する文化があり、「休みを取りづらい」雰囲気はほとんどありません。
夏季休暇と年次有給休暇を組み合わせて、1週間〜10日程度の連続休暇を取得する人も多いです。長期の海外旅行も計画しやすい環境です。
テレワークの導入状況 新型コロナウイルスの影響で、公共機関でもテレワークが急速に普及しました。現在も週2〜3日のテレワークを継続している組織が多いです。
ただし、セキュリティの観点から、機密情報を扱う業務はテレワークができないこともあります。また、レガシーシステムがオンプレミスにあり、リモートアクセスが難しい場合もあります。
デジタル庁や一部の先進的な自治体では、フルリモート勤務も可能です。クラウド環境を活用し、場所を選ばず働ける環境を整備しています。
育児・介護との両立 育児休業、育児短時間勤務、子の看護休暇など、育児支援制度が非常に充実しています。女性だけでなく、男性も育児休業を取得しやすい雰囲気が醸成されています。
介護休暇も取得しやすく、親の介護と仕事を両立している職員も多いです。短時間勤務、フレックスタイムなど、柔軟な働き方が可能です。
転勤の有無 国家公務員は、全国転勤が前提です。数年ごとに転勤があり、地方の出先機関や、他省庁への出向もあります。家族の事情で転勤が難しい場合は、配慮される場合もあります。
地方公務員は、基本的に転勤がないか、あっても県内・市内に限定されます。地元で安定して働きたい人には最適です。
独立行政法人や特殊法人は、組織の規模や事業所の数によって異なりますが、国家公務員ほど頻繁な転勤はありません。
公共機関・官公庁に必要なスキルと資格
技術スキル
公共機関のエンジニアに求められる技術スキルは、組織や職種によって異なります。
アプリケーション開発スキル 基幹システム開発では、Java、C#、VB.NET、COBOLなどが使われます。特にJavaは、多くの行政システムで採用されており、Spring Framework、Hibernate、Strutsなどのフレームワークの知識が役立ちます。
Web開発では、JavaScript、PHP、Pythonなども使われます。React、Vue.js、Angularなどのモダンなフレームワークを採用する組織も増えています。
データベースは、Oracle、PostgreSQL、MySQL、SQL Serverなどが一般的です。SQLの知識は必須で、データベース設計、パフォーマンスチューニングの経験があると評価されます。
インフラ・クラウドスキル オンプレミスのサーバー・ネットワーク管理は、依然として重要です。Windows Server、Linux、仮想化(VMware、Hyper-V)、ストレージ、バックアップなどの知識が必要です。
近年は、クラウド移行が進んでおり、AWS、Azure、GCPの知識が重要になっています。ガバメントクラウドの採用も進んでおり、クラウドネイティブな設計・運用スキルが求められます。
LGWAN(総合行政ネットワーク)など、行政専用ネットワークの知識も必要です。
セキュリティスキル 公共機関は、サイバー攻撃の標的となりやすく、セキュリティは最重要課題です。ファイアウォール、IDS/IPS、WAF、ウイルス対策、暗号化、アクセス制御など、多層的なセキュリティ対策の知識が必要です。
政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)、地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドラインなど、公共機関特有のセキュリティ基準を理解する必要があります。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)、CISSP、CISMなどのセキュリティ資格を持っていると高く評価されます。
データ分析・AI/MLスキル 政策立案のためのデータ分析、業務効率化のためのAI活用など、データサイエンスのスキルも重要になっています。
Python、R、SQL、Tableau、Power BIなどのツールを使った、データ抽出、加工、可視化、統計分析のスキルが求められます。
機械学習モデルの構築(scikit-learn、TensorFlow、PyTorch)、自然言語処理、画像認識などの知識があると、AIプロジェクトに参画できます。
プロジェクトマネジメントスキル 大規模なシステム開発プロジェクトを管理する能力も重要です。プロジェクト計画、進捗管理、リスク管理、品質管理、ステークホルダー管理など、PMBOKに基づくプロジェクトマネジメントの知識が必要です。
調達管理も重要で、RFP作成、ベンダー選定、契約管理、検収などのスキルが求められます。
PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)、プロジェクトマネージャ試験などの資格があると有利です。
公務員試験・採用試験
公共機関に就職するには、各種試験に合格する必要があります。
国家公務員試験 中央省庁に就職するには、国家公務員試験に合格する必要があります。
総合職試験は、いわゆる「キャリア官僚」の採用試験で、政策の企画立案を担う幹部候補生として採用されます。大卒程度の難易度で、倍率は10倍以上と非常に高いです。
一般職試験は、各省庁の一般業務を担う職員の採用試験です。大卒程度、高卒程度があり、総合職より倍率は低めですが、それでも5〜10倍程度です。
デジタル職は、デジタル庁や各省庁のIT部門向けの新しい試験区分で、ITスキルを重視した採用です。情報工学、データサイエンス、サイバーセキュリティなどの専門知識が問われます。
経験者採用試験もあり、民間企業での実務経験を活かして公務員になる道もあります。年齢上限は40歳程度で、書類選考と面接で選考されます。
地方公務員試験 各自治体が独自に実施する採用試験です。大卒程度、高卒程度の区分があり、教養試験、専門試験、論文試験、面接試験が実施されます。
情報職、技術職などの専門職採用もあり、IT関連の専門知識が問われます。倍率は自治体により異なりますが、3〜10倍程度が一般的です。
社会人経験者採用も増えており、民間企業での実務経験を評価する自治体が多いです。年齢上限は自治体により異なりますが、30〜45歳程度です。
独立行政法人・特殊法人の採用 独立行政法人や特殊法人は、公務員試験ではなく、民間企業と同様の採用選考を行います。書類選考、筆記試験(適性検査、専門試験)、面接試験で選考されます。
経験者採用が中心で、民間企業での実務経験が重視されます。特定のスキルや経験を持つ人材をピンポイントで採用することが多いです。
取得すべき資格
公共機関のエンジニアとして評価される資格は多岐にわたります。
情報処理技術者試験 基本情報技術者、応用情報技術者は、IT技術者としての基礎力を証明する国家資格です。公務員試験でも加点される場合があり、取得を推奨する組織も多いです。
高度情報処理技術者試験(ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャなど)は、専門性の高い資格で、キャリアアップに有利です。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)は、セキュリティの国家資格で、公共機関のセキュリティ部門で高く評価されます。
ベンダー資格 AWS認定ソリューションアーキテクト、Google Cloud Professional Cloud Architect、Microsoft Azure Administratorなど、クラウドベンダーの認定資格は、クラウド移行プロジェクトで役立ちます。
Oracle Master、CCNA(シスコ認定)、LPIC(Linux技術者認定)なども、実務で活かせる資格です。
プロジェクトマネジメント資格 PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)は、国際的に認知されたプロジェクトマネジメント資格で、大規模プロジェクトのリーダーに推奨されます。
ITストラテジスト、システム監査技術者なども、管理職やアーキテクト職で評価されます。
セキュリティ資格 CISSP(Certified Information Systems Security Professional)、CISM(Certified Information Security Manager)は、国際的なセキュリティ資格で、特に大規模組織のセキュリティ管理職で評価されます。
CEH(Certified Ethical Hacker)は、セキュリティ診断やペネトレーションテストを担当するエンジニアに有用です。
行政・法律知識
公共機関のエンジニアには、技術スキルだけでなく、行政や法律の知識も必要です。
行政の仕組み 国・都道府県・市区町村の役割分担、行政機関の組織構造、予算編成プロセス、議会の仕組みなど、行政の基本的な仕組みを理解する必要があります。
特に、IT調達制度、会計法、地方自治法、行政手続法など、業務に直結する法律の知識は重要です。
個人情報保護 行政機関が扱う個人情報は、個人情報保護法の厳格な規制を受けます。行政機関個人情報保護法(2023年4月から個人情報保護法に統合)、マイナンバー法など、関連法規を理解する必要があります。
個人情報の収集、利用、提供、管理について、法律に準拠したシステム設計・運用が求められます。
情報公開 行政機関は、情報公開法に基づき、保有する情報を開示する義務があります。システムで管理する情報も開示請求の対象となるため、ログの記録、文書管理、開示手続きなどを適切に行う必要があります。
サイバーセキュリティ基本法 国のサイバーセキュリティ政策の基本となる法律で、行政機関にもサイバーセキュリティ対策が義務付けられています。
政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群など、関連ガイドラインを理解し、準拠したシステム構築が必要です。
公共機関・官公庁の求人の探し方
公務員試験による採用
公共機関に就職する最も一般的な方法は、公務員試験に合格することです。
国家公務員試験の受験 人事院のウェブサイトから、試験の申込ができます。試験は年1回、春季に実施されます。
総合職試験(春・秋)、一般職試験(春)、デジタル職試験、経験者採用試験など、複数の試験区分があります。自分のキャリアと学歴に合った試験を選びましょう。
試験合格後、官庁訪問を行い、各省庁から内定をもらう必要があります。官庁訪問では、志望動機、これまでの経験、やりたい仕事などを面接で伝えます。
地方公務員試験の受験 各自治体のウェブサイトから、試験の申込ができます。試験時期は自治体により異なりますが、多くは6月〜9月に実施されます。
情報職や技術職の採用枠があるかどうか、募集要項を確認しましょう。大規模自治体では毎年採用がありますが、小規模自治体では不定期の場合もあります。
複数の自治体を併願することも可能です。ただし、試験日程が重なる場合は、どちらかを選ぶ必要があります。
試験対策 公務員試験は、一般教養、専門知識、論文、面接と、幅広い能力が問われます。独学でも合格可能ですが、予備校(TAC、LEC、大原など)を利用する人も多いです。
過去問題集、参考書、模擬試験などを活用し、計画的に勉強しましょう。特に一般教養は範囲が広いため、早めの対策が重要です。
論文試験では、行政課題に対する自分の考えを論理的に述べる能力が求められます。時事問題にも関心を持ち、自分なりの意見を持つことが重要です。
経験者採用・中途採用
民間企業での実務経験を活かして、公共機関に転職する方法もあります。
デジタル庁の経験者採用 デジタル庁は、民間企業経験者を積極的に採用しています。常時募集を行っており、ウェブサイトから応募できます。
職種は、エンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナー、プロジェクトマネージャーなど多岐にわたります。任期付職員(2〜3年)としての採用が多いですが、常勤職員の募集もあります。
選考は、書類選考と面接で行われ、公務員試験のような筆記試験はありません。GitHub、ポートフォリオ、技術ブログなど、実績を示す資料があると有利です。
各省庁の経験者採用 総務省、経済産業省、国土交通省など、各省庁も経験者採用を行っています。人事院の経験者採用試験に合格するか、各省庁の独自採用に応募します。
IT人材の採用に力を入れている省庁も多く、民間企業でのシステム開発経験、プロジェクトマネジメント経験が評価されます。
自治体の社会人経験者採用 多くの自治体が、社会人経験者採用を実施しています。年齢上限は30〜45歳程度で、民間企業での実務経験年数(通常3年以上)が応募条件です。
情報職での募集があるか、各自治体のウェブサイトの採用情報を確認しましょう。一般職と比較して倍率は低めで、実務経験が評価されるため、転職しやすい傾向にあります。
独立行政法人・特殊法人の中途採用 独立行政法人や特殊法人は、民間企業と同様に中途採用を随時行っています。各組織のウェブサイトの採用情報や、転職サイトで求人を探せます。
経験者採用が中心で、特定のスキルを持つ人材をピンポイントで募集します。求める人物像が明確なため、自分のスキルとマッチすれば内定しやすいです。
転職エージェント・転職サイトの活用
公共機関の求人は、一般的な転職エージェントや転職サイトにも掲載されます。
転職エージェント リクルートエージェント、doda、マイナビエージェントなどの大手総合型エージェントは、独立行政法人や特殊法人の求人を保有しています。
公務員の求人は少ないですが、準公務員的な立場の求人を紹介してもらえます。非公開求人もあるため、登録しておくと良いでしょう。
レバテックキャリア、マイナビIT AGENTなどのIT特化型エージェントも、公的機関のIT部門の求人を扱うことがあります。
転職サイト Green、リクナビNEXT、マイナビ転職などの転職サイトにも、独立行政法人や特殊法人の求人が掲載されます。
「独立行政法人」「公的機関」「官公庁」などのキーワードで検索すると、関連求人が見つかります。スカウト機能を活用し、企業からのオファーを待つのも良い方法です。
公的機関特化の求人サイト 「公務員転職ナビ」など、公共機関の求人に特化したサイトもあります。自治体の社会人経験者採用、独立行政法人の求人などが掲載されています。
直接応募・コネクション
直接応募や、人脈を活用した転職も有効です。
組織の採用ページから直接応募 デジタル庁、IPA、JAXAなど、多くの公的機関が自組織のウェブサイトで採用情報を公開しています。定期的にチェックし、興味のある求人があれば直接応募しましょう。
エージェント経由よりも、組織と直接やり取りできるメリットがあります。
リファラル採用 公共機関で働く知人がいれば、リファラル(紹介)してもらうのも良い方法です。組織の内情を事前に知ることができ、選考でも有利になる場合があります。
大学の先輩・後輩、前職の同僚など、人脈を活用しましょう。
インターンシップ・出向 民間企業から公的機関への出向制度を利用する方法もあります。一定期間、公的機関で働き、その後、正式に転職するパターンです。
デジタル庁は、民間企業との人事交流を積極的に行っており、出向者を受け入れています。出向中に組織の文化や仕事内容を理解でき、ミスマッチを防げます。
求人情報の収集方法
公共機関の求人情報は、様々な方法で収集できます。
公式ウェブサイト 各組織の公式ウェブサイトの「採用情報」「職員募集」ページを定期的にチェックしましょう。最新の募集情報が掲載されます。
人事院のウェブサイトでは、国家公務員試験の情報、各省庁の採用情報が一元的に掲載されています。
自治体の採用サイト 都道府県庁、政令指定都市、中核市などは、独自の採用サイトを持っています。社会人経験者採用の情報も掲載されるため、希望する地域の自治体サイトをブックマークしておきましょう。
メールマガジン・SNS デジタル庁など、一部の組織はメールマガジンやSNS(Twitter、Facebookなど)で採用情報を発信しています。フォローしておくと、最新情報をいち早く入手できます。
公共機関・官公庁転職の成功事例
事例1: Web業界からデジタル庁へ(30代前半・男性)
転職前の状況 ベンチャー企業でフルスタックエンジニアとして5年勤務。React、Node.js、AWSでの開発経験が豊富で、年収は600万円。「もっと社会的影響の大きい仕事がしたい」という想いから、デジタル庁への転職を決意。
転職活動の内容 デジタル庁のウェブサイトから直接応募。職務経歴書に加え、GitHubのリポジトリ、個人開発したアプリのデモ、技術ブログのURLを提出し、技術力をアピール。
面接では、行政のデジタル化への関心、これまでの開発経験、チームでの協働経験などを詳しく聞かれた。「国民のためのサービスを作りたい」という熱意を伝えた。
転職の結果 デジタル監(任期付職員)として内定。年収は750万円にアップし、国家公務員としての身分も得られた。マイナポータルの開発チームに配属され、UIUXの改善を担当。
「国の重要プロジェクトに若手から参画でき、大きな裁量を持って働ける。民間企業より意思決定に時間がかかることもあるが、それだけ多くのステークホルダーの意見を聞く必要があるということ。やりがいは非常に大きい」とのこと。
事例2: SIerから都道府県庁へ(30代後半・女性)
転職前の状況 大手SIerで自治体向けシステムの開発を8年担当。プロジェクトマネージャーとして、複数の自治体のシステム刷新に携わった。年収は720万円。地元に戻りたいという想いと、「発注側の立場で仕事をしてみたい」という興味から、地元の県庁への転職を決意。
転職活動の内容 地元県庁の社会人経験者採用(情報職)に応募。SIerでの自治体システム開発経験、プロジェクトマネジメント経験、基本情報技術者・プロジェクトマネージャの資格をアピール。
面接では、自治体DXへの提案、これまでのプロジェクト経験、地元への貢献意欲などを伝えた。「県民サービスの向上に直接貢献したい」という想いを強調。
転職の結果 県庁情報政策課の主査として採用。年収は初年度は600万円とやや下がったが、将来的な昇給と充実した福利厚生を考慮し納得。県の基幹システム刷新プロジェクトのリーダーを担当。
「発注側の立場になり、より広い視野でシステムを考えられるようになった。ベンダーとの交渉、予算折衝、議会への説明など、新しいスキルも身についている。地元で安定して働けることも大きなメリット」とのこと。
事例3: 金融機関から独立行政法人へ(40代前半・男性)
転職前の状況 メガバンクのシステム部門で15年勤務。大規模金融システムの開発・運用、セキュリティ対策を担当。年収は950万円。「金融以外の分野で経験を積みたい」「社会貢献性の高い仕事がしたい」という想いから転職を決意。
転職活動の内容 情報処理推進機構(IPA)の中途採用に応募。金融機関でのシステム開発経験、特にセキュリティ対策の実績を強調。情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)、CISSP、プロジェクトマネージャの資格もアピールポイントに。
面接では、サイバーセキュリティ対策への知見、大規模プロジェクトのマネジメント経験、IT人材育成への関心などを伝えた。
転職の結果 IPAのセキュリティセンターに採用。年収は850万円とやや下がったが、ワークライフバランスが大幅に改善。J-CRATによるサイバー攻撃対策支援事業を担当し、日本全体のサイバーセキュリティ向上に貢献。
「金融機関で培ったセキュリティの知見を、より広い分野で活かせている。残業も月10時間程度で、家族との時間が増えた。年収は下がったが、充実した福利厚生と安定性を考えれば十分満足」とのこと。
事例4: 研究者からJAXAへ(30代前半・男性)
転職前の状況 大学で博士号を取得後、民間企業の研究所で画像処理・機械学習の研究に従事。年収は550万円。「宇宙開発に携わりたい」という子供の頃からの夢を実現するため、JAXAへの転職を決意。
転職活動の内容 JAXAの任期付研究員の公募に応募。博士論文のテーマ(衛星画像の自動解析)が、JAXAの事業に直結していたことが強み。学会発表、論文投稿の実績をアピール。
面接では、これまでの研究内容、JAXAで取り組みたいテーマ、長期的なキャリアビジョンなどを詳しく説明。宇宙開発への情熱を熱く語った。
転職の結果 JAXAの衛星利用推進センターに任期付研究員として採用。年収は650万円にアップ。人工衛星の観測データを解析し、地球環境監視、災害対策に活用する研究を担当。
「子供の頃からの夢が実現し、毎日が充実している。最先端の衛星データに触れ、世界トップレベルの研究者と協働できる環境は刺激的。任期付だが、実績を出せば常勤に切り替わる可能性もある」とのこと。
公共機関・官公庁転職で注意すべきポイント
民間企業との文化の違い
公共機関の組織文化は、民間企業、特にスタートアップとは大きく異なります。
意思決定のスピード 民間企業では、経営者や部門長の判断で迅速に意思決定できますが、公共機関では、多くのステークホルダーの合意形成が必要です。
上司の承認、関係部署との調整、法律・規則との整合性確認、場合によっては議会の承認など、多くのステップを経る必要があります。「なぜこんなに時間がかかるのか」とフラストレーションを感じることもありますが、公的資金を使う以上、慎重な意思決定が求められます。
階層的な組織構造 民間企業、特にスタートアップではフラットな組織構造が一般的ですが、公共機関は階層的な組織です。係員、主任、係長、課長補佐、課長、部長という明確な階層があり、指揮命令系統も明確です。
年功序列の要素も残っており、若手が上層部に直接提言することは難しい場合もあります。ただし、近年は風通しの良い組織作りを目指す動きもあります。
リスク回避の文化 民間企業、特にスタートアップでは「失敗を恐れず挑戦する」文化がありますが、公共機関では「失敗しないこと」が重視されます。
税金を使う以上、失敗は許されないという意識が強く、慎重な姿勢が求められます。新しいことに挑戦する際も、十分な検討と準備が必要です。
前例主義 「前例がない」ことは、公共機関では大きなハードルです。過去の事例を重視し、前例のないことは慎重に検討されます。
一方で、デジタル庁や一部の先進的な自治体では、「前例がないからこそ挑戦する」という文化も生まれつつあります。
年収・キャリアの現実
公共機関への転職は、年収面でトレードオフがあります。
初年度年収の下降 民間企業から公共機関に転職すると、初年度年収が下がることが多いです。特に、高年収の民間企業から転職する場合、200万円〜300万円下がることもあります。
ただし、長期的には安定した昇給があり、福利厚生も充実しているため、生涯賃金で考えると必ずしも損とは限りません。
年功序列的な昇給 公共機関の昇給は、年功序列的な側面が強く、若手のうちは昇給幅が小さいです。成果を出しても大幅な昇給は期待できません。
一方で、長く勤めれば確実に昇給し、定年まで雇用が保障されます。長期的なキャリア形成を前提とした給与体系です。
キャリアパスの固定性 民間企業では、転職やキャリアチェンジが一般的ですが、公共機関では一つの組織で長く勤めることが前提です。
異動やローテーションを通じて多様な経験を積みますが、基本的には同じ組織内でのキャリア形成になります。転職してキャリアアップすることは一般的ではありません。
技術的な制約
公共機関のIT環境には、技術的な制約もあります。
レガシーシステムの存在 多くの公共機関では、数十年前に構築されたレガシーシステムが現役で稼働しています。メインフレーム、COBOL、古いバージョンのJavaなど、古い技術を使い続けていることも多いです。
最新技術に触れたいエンジニアには物足りなく感じるかもしれません。一方で、レガシーシステムの刷新プロジェクトに携われば、大規模なシステム移行の貴重な経験を積めます。
セキュリティ制約 公共機関のネットワークは、セキュリティ上の理由から、インターネットから分離されていることが多いです。開発環境でも、外部サイトへのアクセスが制限され、GitHubやStack Overflowを自由に見られないこともあります。
最新の技術情報を入手しにくく、開発効率が下がることもあります。ただし、近年はセキュリティを保ちつつ、利便性も向上させる取り組みが進んでいます。
技術選定の保守性 新しい技術を採用する際は、慎重な検討が必要です。長期的なサポート、ベンダーの信頼性、実績、セキュリティなど、多くの要素を考慮します。
「この技術を使ってみたい」と思っても、すぐに導入できるわけではありません。ただし、実績のある技術を使いこなし、長期的に安定したシステムを構築する経験は、エンジニアとして重要なスキルです。
ワークライフバランスの実情
公共機関はワークライフバランスが良いと言われますが、部署によって異なります。
繁忙期の存在 予算編成時期、議会対応時期、システム刷新プロジェクトの佳境など、繁忙期は残業が増えます。月40〜60時間程度の残業になることもあります。
ただし、民間IT企業の繁忙期と比較すれば、まだ少ない方です。また、残業代は確実に支給されます。
部署による違い 企画部門、政策立案部門は残業が多い傾向にあります。一方、システム運用・保守を担当する部署は、比較的残業が少ないです。
自分がどのような働き方を望むか、事前に確認しましょう。
転勤の可能性 国家公務員は、全国転勤が前提です。希望しない転勤もあり得ます。家族の事情で転勤が難しい場合は、地方公務員や独立行政法人を検討しましょう。
公共機関・官公庁で活躍するためのマインドセット
長期的な視点と忍耐力
公共機関でのプロジェクトは、長期間にわたります。
数年単位のプロジェクト 大規模なシステム刷新プロジェクトは、企画から稼働まで5年以上かかることも珍しくありません。予算編成、調達、開発、テスト、移行と、多くのステップを経ます。
すぐに成果が見えないこともありますが、粘り強く取り組む忍耐力が必要です。
継続的な改善 一度構築したシステムを、長期的に改善し続けることも重要です。利用者の声を聞き、使いやすさを向上させ、新しい技術を取り入れる。地道な改善活動が、住民サービスの向上につながります。
公共の利益への意識
公共機関で働く上で最も重要なのは、公共の利益を優先する意識です。
全体最適の視点 特定の部門や個人の利益ではなく、組織全体、さらには国民・住民全体の利益を考える視点が必要です。
自分の担当業務だけでなく、それが社会全体にどのような影響を与えるか、常に考える姿勢が重要です。
公平性・透明性 公的資金を使う以上、公平性と透明性が求められます。特定のベンダーに有利な仕様にしない、調達プロセスを透明にする、説明責任を果たすなど、高い倫理観が必要です。
セキュリティとプライバシーの重視 国民・住民の個人情報を扱う以上、セキュリティとプライバシーを最優先する意識が必要です。少しでも疑問を感じたら、上司や専門家に相談する慎重さが重要です。
学習意欲と柔軟性
公共機関でも、継続的な学習が重要です。
新しい技術の習得 行政のデジタル化が進む中、クラウド、AI、データ分析など、新しい技術の習得が求められます。自己啓発を怠らず、常にスキルアップする姿勢が重要です。
組織によっては、研修制度が充実しており、外部セミナーや資格取得の支援もあります。積極的に活用しましょう。
行政知識の習得 技術スキルだけでなく、行政の仕組み、法律、政策についても学ぶ必要があります。行政職員として、幅広い知識を持つことが、より良い仕事につながります。
変化への適応 公共機関は変化が遅いと思われがちですが、近年は急速に変化しています。デジタル化、働き方改革、組織改革など、様々な変化に柔軟に適応する姿勢が求められます。
コミュニケーション能力
公共機関では、多様なステークホルダーとのコミュニケーションが重要です。
分かりやすい説明 技術的に詳しくない上司や他部署の職員、議員、住民などに対して、専門用語を使わず分かりやすく説明する能力が求められます。
「なぜこのシステムが必要なのか」「どのようなメリットがあるのか」を、相手の立場に立って説明しましょう。
調整力 多くの部署、外部ベンダー、利用者など、様々な関係者の意見を調整し、合意形成を図る能力が重要です。
対立する意見をどう調整するか、全体最適をどう実現するか、バランス感覚が求められます。
まとめ: 公共機関・官公庁への転職を成功させるために
公共機関・官公庁は、安定性、社会貢献性、ワークライフバランスなど、民間企業にはない魅力があります。一方で、開発スピードの遅さ、年功序列、技術的制約など、トレードオフもあります。
転職成功のポイント
- 自分の価値観を明確にする: 安定性を最優先するのか、年収を優先するのか、自分の価値観を明確にする
- 組織の違いを理解する: 中央省庁、地方自治体、独立行政法人では、働き方が大きく異なる。自分に合った組織を選ぶ
- 長期的なキャリアを考える: 公共機関は長期雇用が前提。10年後、20年後のキャリアを見据えた選択をする
- 試験対策を怠らない: 公務員試験は計画的な対策が必要。早めに準備を始める
- 実務経験をアピールする: 経験者採用では、民間企業での実務経験が評価される。具体的な実績を示す
- 公共の利益への意識を示す: 面接では、社会貢献への意欲、公共の利益を優先する姿勢をアピールする
公共機関への転職は、年収面では妥協が必要かもしれません。しかし、雇用の安定性、充実した福利厚生、社会インフラを支えるやりがい、ワークライフバランスなど、お金では買えない価値があります。
安定した環境で、長期的なキャリアを築きたい。国民・住民のために働きたい。そんな想いを持つエンジニアにとって、公共機関・官公庁は最適な選択肢です。
この記事が、公共機関への転職を考えるエンジニアの参考になれば幸いです。
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